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REPORT

レポート

2019.03.1

2019年への視座~変わる世界の構造と日本の進路~

寺島 実郎氏(一般財団法人日本総合研究所 会長/多摩大学 学長)

経営とは時代認識である

今自分が生きている時代を、うすぼんやりとした程度にしか認識できていないとすれば、成功するわけがありません。個人の生き方もしかりです。自分たちが今生きている時代をグリップして展望を開こうと努力をするのが、「経営」という仕事だと思います。

コスモ教育出版の『理念と経営』のタイトルにもあるように、経営にとって1つ大事なことは理念、つまり価値機軸とか、志のようなものだと思いますが、これが経営を支える大きな力になると思います。

経済の変調とリスクの顕在化

IMFが3カ月に1回出している世界経済見通しは、世界全体のGDPともいうべき指標で、世界経済の成長率を表しています。最近力をつけてきている新興国にしても、成長している国とそうでない国の二極化が進んでいます。中国・インドは6~7%台の成長とすさまじい勢いで伸びているのに対し、ロシア・ブラジルは2%前後の成長と勢いがなくなってきています。

2017年・2018年は世界同時好況といわれた程、経済が好調な中、世界の成長率は3.7%という状況にありました。しかしながら、OECDの発表によると世界の成長率は3.5%程度に若干減速するという見通しもされています。 ここでしっかり認識を持たなくてはいけないのは、3.7%台の成長が3%前半の成長に減速するのはなぜか、なぜ『変調』なのかということです。

 

2019年に入り、ニューヨークのダウの平均株価が15%程度、日本の日経平均は20%の下落という状態になっていて、これも景気の緩やかな失速を示唆しています。更には昨年からの株の乱高下も影響し、お金の動きが比較的安定している債券への投資に流れるため、国債などの需要が上がってきています。この状況下において、近年の実体経済の成長率をはるかに上回る、株価の高騰からこの状態を楽観視する人々も多くみられるため、この株価の乱高下が実体経済に影響を与えかねない状況になっています。自分自身がどの領域で事業を行っていくのかをしっかり明確にして、経営をしていく必要があります。

 

 

世界情勢の中で、日本がどのような状態にあるか

日本の成長は1%に満たない状況にあり、その上で消費税を上げると更に日本の景気は失速するとの見方がなされています。『日本産業はなぜ下降気味なのか』ということに対して事実を確認して、正しく問題意識を持つ必要があります。

『デジタル・ディテクターシップ(専制・覇権)』があります。株式の時価総額ベースで見てみると、アメリカのIT大手5社のGAFA+M(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)は419兆円。それに対して日本の上位5社の時価総額は58.8兆円にすぎません。400兆円というと日本のGDPに匹敵する額です。

携帯電話の普及をけん引した中国のシンセンやアリババは、今や90兆円の時価総額にまでなっています。

アメリカのIT5社(GAFA+M)と、中国のIT2社(シンセン、アリババ)を併せて、米中がITをけん引していくという希望も込めて、ニューセブンシスターズといわれる会社のカテゴリーが言われるようになっています。これらのIT企業は工場を持たず、戦略企画力で世界中の様々な要素をつないで、プロダクトをつくっていくという形態です。これらの企業はビッグデータを支配していますが、まさにデータリズム、ビッグデータを支配するものは世界を制するという時代が来ているのです。

 

企業の大中小も、業界も関係なく、日本産業が置かれている状況です。強い問題意識を持って、IoT技術つまり、ネットワーク情報技術革命の成果を、このデータリズムの時代の中で自社の業態変革にどのようにつなげたらよいのか考えましょう。

 

かつて『ものづくり大国』と言われた日本。10年ほど前までは、技能オリンピック金メダルの獲得数で上位に入っていましたが、2017年には9位という結果になっています。日本の現場力が急速に劣化してきていることを表しています。経営は頭、トップから腐ると言われますが、トップの問題意識の欠如が現場にまで広がっていると感じています。我々は真剣に技術や産業の問題に向き合わなくてはなりません。

 

 

経営者に求められるもの

このような世界、日本の状況を踏まえて、現在のアジアダイナミズムという時代の中で日本がどう生きていくのか、それを経営者としてどう向き合っていくのかが大事です。アジアのダイナミズムをどう吸収していくかということが大切になってきます。

20世紀の初頭に4000万人だった人口は21世紀には1億2000万人になりました。我々の先輩が人口を3倍に増やしたのです。21世紀の見通しを見てみると、22世紀を迎えるころには今のままで行くと人口が半分の6000万人になると言われるほど急激に高齢化が進んでいます。

 

現在65歳以上は非生産人口となっていますが、80歳でも7割は健常者です。その高齢者の社会参画を日本は想定しておく必要があるわけです。この社会の再設計がまさに『ジェロントロジー』の重要な考え方です。高齢化社会工学と訳されますが、人間の老化現象を生物学、医学、社会科学、心理学など多面的、総合的に研究する学問です。人間にとって、思想、宗教、哲学は生きていくうえで大切な概念であり、このジェロントロジーにしっかり目を向けていただけたらと思います。

 


所感

  寺島先生のご講演は、レポートにまとめきれないくらいの知識とデータが詰まった内容でした。

なにか1つの観点ということではなく、社会学的観点、宗教学的観点など、多角的に物事を見ていくことの大切さと、今置かれた環境から、どのような未来を目指していくかを考えることが重要だということを教えていただいたように思います。

日本を取り巻く世界の環境がどのように変わっているのか、データに基づいて見ていくと、これからどのように進んでいかなくてはならないのかが良く見えてきます。良い意味での危機感と、今後を生き残るために向かっていく為のヒントをいただきました。


 

理念と経営 2019年1月号にて掲載

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