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ONE POINT ADVICE

ワンポイントアドバイス

第184号 米国で広がりつつある「No Rating(=人事評価の廃止)」の潮流

■人事制度に新たな潮流が生まれている

 米国のフォーチュン誌が毎年発表している総収入の上位500社である「フォーチュン500」に入っている企業において、人事制度の新たな動きが広がりつつあります。
 それは「No Rating」、日本語でいうと、人事評価において点数をつけることを廃止する動きです。2015年の段階でフォーチュン500の10%の企業がすでに「No Rating」を採用し、2017年までには50%に広がるのではないかと予想されています。
 米国の人事制度の一般的なイメージは、厳格に個人の成果を測定し、それを報酬に連動させるというものですが、ここにきてそのイメージとはまったく逆の動きが広がっていることは、とても興味深いところです。
 なぜ、米国企業が「No Rating」を実施するようになったのでしょうか?

■大きな理由は「パフォーマンスの向上」

 最大の理由は、組織のパフォーマンスを高めるためです。
 現在のビジネス環境は、ルーティンワークで成果が出せるような時代ではなくなりました。一人ひとりが創造性を発揮し、チームで新しい価値を創らなければならない時代です。
 しかし、従来の人事制度のように、社員に点数をつけ、それを報酬額に連動するという仕組みは、その狙いとは逆に人間の創造性を蝕み、個人とチームのパフォーマンスを低下させることが、心理学や脳科学の発展によって明らかになりました。
 実際には、Ratingという仕組みがパフォーマンスを低下させることは、ずいぶん前から分かっていたことなのですが、ようやくここにきて人事制度に反映され始めたのです。

■「Rating」は仕事の喜びも阻害する

 私は、米国企業とは別の視点から、Ratingを廃止した人事制度を2010年から提唱しています。
 それは、社員さん一人ひとりの「働きがい」「生きがい」をつくるという視点です。
 ほとんどの人は、報酬額に連動する仕組みのなかで自分に点数を付けられるということによって、働く動機が報酬額に大きく傾いてしまいます。たしかに、人間が生きていく上で、お金は重要な要素ではありますが、お金が働く動機になってしまったとき、仕事から充実感や達成感、喜び、他者への思いやりが失われていきます。そして、不平・不満、嫉妬などの、人間の負の部分が大きくなってしまいます。

■「No Rating」は万能薬ではない

 米国企業と私が「No Rating」を始めた出発点は違いますが、仕組みとしては類似しているところが大変おもしろいと感じています。
 しかし、懸念していることがあります。
 それは、「No Rating」が広がるにつれて、根本的な思想や哲学がないがしろにされ、テクニックだけが独り歩きする危険があるということです。ちょうど、一昔前に成果主義人事制度が流行したときに、小手先の手法だけを採用して失敗した企業が続出したように、「No Rating」のテクニックだけを採用しても何の意味もありません。
 大切なのは、「どんな会社をつくりたいのか」「社員にどんな人生を歩んでほしいのか」「経営者としてどんな人生を送りたいのか」「人間の幸せとは何なのか」という、根本的な思想や哲学だと思います。それが忘れ去られた時に、「No Rating」は単なる流行で終わってしまうでしょう。
 結局は、どんな経営手法も万能ではなく、使う側の人格が問われるのだと思います。

日創研グループパートナー・コンサルタント
生きがいラボ株式会社 代表取締役 福留幸輔

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