サイト内検索
ONE POINT ADVICE

ワンポイントアドバイス

第188号 「No Rating(=人事評価の廃止)」における給与の決め方

■「No Rating」における最大の疑問点

私の担当記事の前回分で、米国企業が「No Rating」、つまり人事評価における点数づけや格付けを廃止する動きが広まっていることを紹介しました。No Ratingについて初めて知る方は、前回の記事をご参照いただきたいと思います。それに伴い、No Ratingに関する書籍や記事が増えてきていますが、やはり本質的な議論よりも表面的な手法が目立っているように感じます。以前の成果主義人事制度のように、単なる流行りで終わらないことを祈るばかりです。

さて、私は2010年からNo Ratingの人事制度、私は「逆発想の人事制度」と呼んでいますが、人事評価と給与制度を分離した人事制度を提唱しています。
人事評価で点数をつけて、その点数が給与額(昇給・賞与)に連動することが人事制度の常識ですので、逆発想の人事制度のお話をすると、ほとんどの人が「どうやって給与を決めるの?」とおっしゃいます。私がNo Ratingに関するカンファレンスなどに参加したときも、多くの参加者の関心は、「給与をどうやって決めるか」でした。

 

■人事評価を使わずに、どうやって給与を決めるか?

米国でNo Ratingを導入している企業では、給与をマネジャーに一任している企業がほとんどのようです。人件費予算をマネジャーに提示し、その予算を部下にどのように分配するのかはマネジャーの裁量というわけです。

しかし私は、この方法は日本の中小企業に合わないと考えています。理由は3つあります。

まず1つ目の理由は、マネジャーに一任する方法は、マネジャーの能力に大きく依存することです。日本の中小企業のマネジャーは、ほとんどがプレイング・マネジャーですから、部下の給料に関する意思決定権をマネジャーに任せることは、過剰な負担になると考えています。また、人事に関する意思決定を行えるだけのスキルを持っているマネジャーが少ないということもあります。

2つ目の理由を述べるのは少し勇気が必要ですが、誤解を恐れずに言うと、日本の中小企業で働く一般社員層の多くは、直属上司が給料を決定することを肯定的に受け入れられるほど、精神的に自律していないことです。現代の日本社会は、責任より権利を主張する風潮が強いと感じていますが、そのような人が多い企業では米国企業の方法は適さないと考えています。

3つ目の理由は、日本の中小企業のほとんどが単一事業を営んでいることです。日本の中小企業におけるマネジャーというのは、事業のトップではなく、機能のトップであることがほとんどです。したがって、マネジャーごとに人件費の予算を分配することに、そもそも合理性がないのです。

では、「どうやって給与を決めるのか?」ということですが、具体的なことまで述べるとかなり長くなりますので概要だけ説明すると、逆発想の人事制度では、経営陣とマネジャーによる意思決定機関(人事委員会と呼ぶ)と社員さま一人ひとりの「対話」によって、多面的・総合的に意思決定していきます。

イメージとしては、社員さま一人ひとりと個別契約を結ぶイメージです。「それでは手間がかかりすぎる」という意見もあるかと思いますが、会社と個人が対等な立場で信頼関係を築こうとすると、ベストではないにしてもベターな方法だと考えています。 給与制度には「社員が納得する給与額を自動的に弾き出してほしい」というニーズがありますが、それは幻想です。社員さまの頑張りの一部分だけを画一的な評価基準によって切り出し、それに金銭を紐づけることによってモチベーションを高めようとすることが、そもそも不可能なのです。

世界で広まりつつある「No Rating」が、単なるテクニック論で終わるのではなく、人間の本質からみた組織と個人の新たな関係性の議論に発展していくことを願っていますし、私はそのことを発信していこうと考えています。

日創研グループパートナー・コンサルタント
生きがいラボ株式会社 代表取締役 福留幸輔

バックナンバー