2023.06.10

シンクスモール、スモールステップで明確な目標が決まる

社員一人ひとりが、目標を意識した行動と達成へのこだわりを持つと、組織は大きく変わり、常に目標を更新していく強さを身につけることができます。
しかし、実際には常に目的意識を持ちつつ、果敢に目標に挑む姿勢を作り上げることは難しいです。
本記事では、目標達成についての考え方を実践面と脳の意識の観点から詳細を説明しています。
行動的な組織に育てて強い会社をつくるために、人の行動原理を考察してみてはいかがでしょうか。

シンク・スモールの基本概念とは


シンク・スモールとは、物事を大きく考えずにできるだけ細かく分けて、小さく考える概念です。
世界最大の売上高を誇るスーパーマーケットのウォルマートの創業者である、サム・ウォルトンはシンク・スモールの概念で経営に挑みました。

シンク・スモールの真骨頂は、細分化した現状分析にあります。大きすぎて見えにくいものでも、小さくすることでより鮮明に見えることに着目しました。

例えば、売上は会社単位で見るのではなく、一人あたりいくら売っているのか、一人あたりの経常利益はいくらなのか、一人一時間あたりの従業員の人件費は?という具合です。

シンク・スモールはコストを意識した経営の基本ですが、目標を立てる時にも有効活用できます。
大きな目標を打ち立てたあとに、まず成すべきことを細分化し、順序立てて小さな目標を設定していく考え方です。

小さな目標の設定と積み重ねは、いずれ大きな目標に向かうときの揺るぎない足がかりとなるでしょう。
次項からは、大きな目標を成し遂げるためのスモールステップについて、詳細を説明します。

スモールステップとは

目標を細分化し、小さなゴールを設定する方法をスモールステップといいます。
大きすぎる目標の設定は、挫折の一番の原因です。目標達成までの道のりを短く区切り、小さな目標とすることで、最終目標に着実に近づくことを可能にする考え方です。

心理学者バラス・スキナーによって提唱

スモールステップは、アメリカの心理学者バラス・スキナーによって提唱されたプログラム学習の5つの原理のうちの一つです。
スモールステップの原理は、失敗が癖になることを避けるために、学習のステップを細かく設定し、都度味わう達成感によって失敗の回避を目指します。
スモールステップの原理は、教育現場や心理療法にて良く活用されていましたが、あらゆる行動に共通することから、子育てや人材育成の場面でも使われるようになりました。

会社の人材育成で注目される背景

社員の自主性を育み、自らの気づきによって新たな行動を起こす習慣を身につけるためのスモールステップ法は、コーチング制度とともに多くの企業で導入され始めています。
人材不足によって採用活動が難しくなる昨今、優秀な人財は獲得するものではなく、育てるべきという考え方が一般化しつつあります。
そんな中、育成方法としてのスモールステップ法は、注目の指導プラグラムです。スモールステップ法は、スキルアップのみならず、モチベーションの向上にも大いに貢献するでしょう。
小さな成功体験の積み重ねは、やればできるという前向きな考え方の礎となり、やがては大きな目標にも立ち向かえる気力の充実にもつながります。

目標を細かく分けることのメリット


スモールステップ法は、指導される側のみならず、指導を行う側にとってもメリットをもたらします。
スモールステップ法がもたらす具体的なメリットを、以下3つの項目にて紹介します。

モチベーションの維持がしやすい

スモールステップ法の一番のメリットは、目標達成までのモチベーション維持のしやすさです。
数年単位で取り組むような中長期的目標は、とてつもなく大きな壁に見えることもあり、内容によっては最初から諦めてしまいたくなるスケールのものもあります。
果てしない道のりは、細分化した小さなゴールをつなぎ合わせることで、モチベーションを維持しつつ一歩ずつ着実に目標へ近づくことができます。

また、細分化された目標は難易度が下がるため、小さな成功を積み重ねて成功体験を得ることも可能です。成功体験の積み重ねは、よりモチベーションを高めてくれるでしょう。

社員一人ひとりの仕事へのモチベーションが高まれば、組織全体の生産性向上にもよい効果をもたらします。

問題と課題に気づきやすくなる

目標の細分化はゴールまでの道のりが遠くなるように思えますが、多くのゴールを達成する中で、自分の苦手とするポイントに気づいたり、業務上支障がある点を発見できたりするメリットもあります。
社員のスキルアップのみならず、業務改善ポイントの洗い出しにも役立ちます。

指導もしやすい

スモールステップ法は、指導すべきポイントが明確になるため、指導がしやすく、効果も上がりやすいメリットがあります。
細分化された目標はあらたな課題を発見しやすくなり、こまめなフォローを行うことも容易です。
的確な指導によって、よりよいスキルアップ効果が得られるでしょう。また、成果がでると指導者としての自信にもつながります。

スモールステップを構築する手順

スモールステップの段階を作る3つの手順を以下に紹介します。

最終目標を決める

スモールステップを作る時にまず始めに行うのは、大きな目標の設定です。最終目標はできるだけ明確な内容が望ましいです。
例えば、売上や新規顧客の獲得を目標にする場合は、ある程度具体的な数字を示す必要があります。
直近でみると難しそうな目標でも、中長期視点で設定するため、たじろぐことはありません。
最終目標は、10年や20年後として設定するか、1年程度に設定するかは特に決まりはありません。状況に応じて最適な期間で区切ると良いでしょう。

シンクスモールを活用し目標を細分化する

次に、目標を達成するためにやるべきことを細分化します。目標達成までの期間や過程をよく確認し、実行する人のレベルやスキルをよく勘案した上での細分化が必要です。
現実的でない難易度が高すぎる目標設定を行っても、絵に描いた餅となってしまい、意味をなしません。
スモールステップ法にて重要視される点は、少しづつ難易度を上げていくことです。特定のステップが他と比べて特別難しいと感じる場合は、さらに細かく細分化することも考える必要があります。

やるべきことの洗い出しと行動

目標までの道筋ができたら、あとは一つづつこなしていくだけです。無理のない難易度と分量で設定しているため、最初はある程度簡単にクリアできるでしょう。
達成状況がひと目で分かるように可視化する、仲間と進捗状況を共有するなどすると、目標をクリアしていくことが楽しくなります。特定の目標をクリアしたら、何らかのご褒美を自分に与えることも、計画の進行には効果的です。
行き詰まった時のフォローアップを行うために、記録をつけておきましょう。課題が明確になると、指導を的確に行うことができます。

スモールステップを使う時の注意点


スモールステップ法は大きな目標を成し遂げるための効果的な手法ですが、実践において、いくつかの注意点があります。大きな3つの注意点を以下に紹介します。

行動を意識した目標を立てる

行動できる目標を掲げることが重要です。具体的な行動を伴う目標でなければ、スモールステップ法の強みを活かしきることはできません。
スモールステップ法の目的は、難易度が高く複雑な目標を、出来る限りシンプルな方法で達成できるように組み替えることです。
実行する人にとって、理解しにくい、漠然としたステップにならないよう、目標の細分化を行いましょう。

細かすぎる目標は逆効果

目標の細分化はスモールステップ法の基本ですが、あまりに目標を細かく分けすぎると望む効果が得られません。目標が増えるとその分、ゴールまでのプロセスが増えることになります。
全体像が広がりすぎると、そもそも何を目標としていたのかわからなくなり、モチベーションの低下にも繋がります。
全体の工程を見渡した時に、多すぎると感じる場合は、少し調整したほうが良いでしょう。

目標達成までに時間がかかりすぎることも

目標を細分化した分だけ達成すべき課題が増えるため、ゴールにたどり着くまでに予想外の時間を要してしまうことがあります。
目標達成までの期限が定められている場合は、スモールステップ法の採用を諦めざるをえない可能性もあります。
時間をかけながら着実に目標を目指す方法なので、結果を急いでいる場合にスモールステップ法を使うのは、現実的ではありません。

スモールステップにて目標を達成する実践の例

ここまでスモールステップ法のメリットや活用方法について紹介してきましたが、この項目では、具体的な実践例について3点紹介します。

売上目標

売上目標の達成には、スモールステップ法を活用できます。年間売上5,000万円を目標に掲げたところで、従業員や社員は実際に何をすると良いのか、検討もつかないでしょう。他人事に感じてしまい、当事者意識を持てません。
まずは、年間5000万円をひと月500万円に設定し直し、月500万円の売上を達成するには何をしたら良いのか、リストアップし具体化します。
営業であれば、顧客へのアプローチ手法や件数、小売店であれば集客方法と具体的な行動がフォーカスされるのではないでしょうか。

タスク管理の指導

スケジュール管理が苦手な社員を指導する時にも、スモールステップ法は有効です。例えば、指導を必要とする社員が紙媒体でスケジュール管理をしている場合、ITツールやグループウェアの導入を勧めることができます。
終わったタスクにはチェックをつける習慣化も必要です。スタート時に会議への意気込みを自ら語り、共有するチェックインの導入も有効です。会議の冒頭で一言話す機会が与えられると、会議のための準備を行うようになり、日時の意識が高まります。

集中力散漫な社員への指導

会議中に上の空であったり、居眠りをしている社員へ、毎回指導しても改善が見られない場合、やる気がないと判断してしまいがちです。
指導の効果が見られない社員には、まずなぜやる気がなく注意力散漫なのか、という点を考えましょう。
例えば、該当する社員が寝ていても会議が滞りなく進むという場合、役割が何も与えられていないことが考えられます。
スモールステップ法は、与えられた役割の重要度を積み上げていく際にも、効果的に活用できます。
例えば、「必ず一度は発言する」「会議の要点をまとめる」など、社員の能力に合わせた役割を任せることで、会議に参加する態度に変化がないか見定めることから始めてみてはいかがでしょうか。

目的意識が目標達成への原動力となる


意味のある目標を立てるためには、明確な目的が必要です。目的意識は目標達成へ向けての原動力となるでしょう。
会社組織で、仕事に対する目的意識が統一されていない場合、個々の仕事に対する温度感に差が生じることがあります。
会社として目的意識をもつことが、一人ひとりの目標達成にも大きく影響することを忘れてはいけません。

目的意識が起きない理由

目的意識が芽生えずに、日々なんとなく過ごしてしまうのには明確な理由があります。目的意識が起きない理由を脳科学の原則に基づいて以下、2つの項目にて紹介します。

周りの環境と報酬

目的意識とは、内側からみなぎってくるやる気とも言いかえることができます。目的意識による行動、すなわちやる気とは、どのように形成されるのでしょうか。
ポイントは周りから受ける影響や、過去の経験です。
人間の行動の裏付には報酬があります。金品や物の他に、食べ物と食欲、喉の乾きと飲料、退屈となにかしらの刺激など、多くは経験則に基づくものです。

行動に伴う報酬を原動力として、意思決定や目的思考、行動は生まれます。
一方、喜びや満足、悲しみなど感情を動かすような報酬がなければ、脳への刺激がなくドーパミンは出にくい状況に陥ります。
報酬もなく、やる気が出にくい劣悪な環境で新鮮な気持ちを持ちつつ、目的意識を持って仕事をする、ということはどだい無理な話です。

目標を達成した後のビジョンが明確に見え、周りも目標達成に向けて熱がある環境つくりを目指したいところです。

失敗を恐れている

失敗の経験は人を臆病にし、新しい行動の妨げになります。
新たなスキルアップや知識の習得は達成感をもたらし、報酬に関する脳の意識が活性化します。したがって、成功して自信をつけた人は新しい行動への希望を沸き立たせて、新たな挑戦ができるのです。予想以上に良いことが起きた時も同様に、ドーパミンの分泌が進むため、相乗効果がのぞめます。

一方で、残念なことやうまく行かなかった事に遭遇すると、脳のドーパミンの受け渡しは停止してしまいます。
過去の失敗、成功の経験によって、脳は学習してしまい、楽しいことは行動するけど、つまらないことはやらない、という判断が事前になされてしまうメカニズムです。
過去の失敗と成功の体験によって、人間の行動は形成されていき、無意識の行動下では、経験によって形成された脳の判断に従うことになります。

失敗を恐れて行動に移せない原理は、経験によって脳に刻まれたプログラムの一つです。失敗なくして成功はありませんが、失敗続きだと新しい挑戦の足かせとなってしまいます。
結果として、新たな目的意識は持たずに、なんとなく業務をこなすことを選択してしまうのです。

目的意識を持つには

目的意識を持つことで、やる気の向上につながり、一人ひとりの生産性を上げることができます。この項目でも、前項を引き継いで、脳科学に基づいたやる気アップの詳細を紹介します。

明確な目的を掲げる

ワクワクするような目的を元に目標を掲げることで、行動は持続します。心躍るような気持ちが達成感につながることを脳は学習しているため、行動に繋がりやすくなる原理です。

一方で、いざ行動レベルに落として考え出すと、一気に現実感は増してワクワク感は消失します。
何のために行動するのか、行動で得られる結果を明確にイメージしつつ、行動レベルの思考をバランス良く行うことが行動と達成につながる唯一の近道です。
行動レベルの困難に遭遇した時は、達成した時のイメージにて乗り切ると、行動が継続しやすくなります。

自分のみならず誰かのためにという考え方

自分だけのために起こす行動には限界があります。
子を思う母のように、誰かのために、という気持ちから引き出せる人間の力は予想外に大きなものです。人の行動力の源といっても差し支えないでしょう。
人のためにと思って起こした行動が、予想外に誰かに影響を与えた場合、ドーパミンは大きく分泌されモチベーションアップにつながります。
相手の反応が良く、良い評価が得られるとよりモチベーションは上がり、積極的な行動が期待されます。
自分が取った行動が、周りにどのような影響を与え、変化が起こるのか、具体的イメージができると、目的意識を持った行動が取れるようになるでしょう。

まとめ

つい物事を大きく捉えて中長期目標にのみ注目してしまいがちですが、大きな目標の達成には、小さく考えることはとても重要です。
小さな目標をこなしつつ大きな目標へ近づいていく体験は、成功体験の積み重ねともなり、獲得した自信が次なる行動へつながる好循環を生み出します。
一方、失敗が続くと、あらたな失敗を恐れるようになり、あらたな行動への足かせになりかねません。
成功体験の積み重ねと継続を意識して、実践的な目標達成への計画を立ててみてはいかがでしょうか。