2025.12.22

コーチングにおける目標設定の重要性とは?役立つフレームワークも解説

コーチングにおける目標設定の重要性とは?役立つフレームワークも解説

コーチング(Coaching)とは、コーチ(コーチングをする側)がクライアント(コーチングを受ける側)の話を丁寧に聞き、効果的な質問を通して対話を深めるコミュニケーション手法です。クライアントに自らの考えや意見を自由に語らせるよう促す点が特徴です。

このコーチングは、ビジネス・スポーツ・教育など、さまざまな分野で活用されています。目的は、クライアントに課題解決や目標達成に必要な気づきを得させ、具体的な行動へとつなげることにあります。

ただし、コーチングを効果的に行うためには、明確な目標設定が必要です。そこで本記事では、全国に14,000社以上の会員企業様を持ち、中小企業の経営支援や人材育成に長年携わってきた日創研が、コーチングにおける効果的な目標設定について解説します。

コーチングにおける目標設定とは?

コーチングにおける目標設定とは、クライアントが思い描く理想の未来像を明確にし、その実現に向けて自ら行動できるよう支援するプロセスのことです。単なる「やるべきことのリスト」を作るのではなく「どうなりたいか」という理想像を出発点とする点が特徴です。

コーチは、クライアントの価値観や理想像を丁寧に引き出し、そのビジョンをもとに行動目標を設定します。つまり、「何をするか」を決める前に、「どうありたいか」という姿を明確にし、そこから逆算して目標を導くのです。このプロセスによって、目標設定は単なる行動計画にとどまらず、モチベーションを維持する要素にもなります。

その結果、クライアントは自分の目標に主体的に取り組み、意義のある行動を積み重ねていけるようになります。これこそが、コーチングにおける目標設定の本質といえるでしょう。

コーチングで目標設定が必要である理由

コーチングで目標設定が必要であるのにはいくつか理由があります。次からそれぞれ見ていきましょう。

方向性を明確にするため

コーチングにおける目標設定は、コーチとクライアントが共通のゴールに向かって進むために必要なものです。目標がなければ、会話や行動の焦点が定まらず、セッションの一貫性も失われてしまいます。クライアントが「何を達成したいのか」「どこを目指すのか」を明確にすることで、対話の方向性が定まり、行動計画もはっきりとします。

例えば「英語を学びたい」という場合でも、海外転職を目指すのか、旅行での会話を楽しみたいのかによって、必要なスキルや学び方は異なります。ビジネスの場でも同様に、目標設定によって言葉の裏にある本当の目的を共有でき、クライアントが望む方向へと進めるようになります。

モチベーションを維持するため

目標設定は、行動の理由を明確にし、継続を支える原動力になります。人は「なぜそれをやるのか」がはっきりしているほど、困難な場面でも前向きに取り組むことができます。

コーチングでは、「何をしたいか」だけでなく「なぜそれをしたいのか」「それが自分にとってどんな意味を持つのか」を掘り下げます。この問いを通じて、行動は外的なプレッシャーではなく、内面的な意欲によって支えられるようになります。

さらに、目標が価値観や理想像と結びついていると、達成までの過程にも喜びや情熱が生まれます。例えば「昇進したい」という目標を「リーダーとして周囲を成長させたい」という目的に置き換えることで、日々の行動に意味が生まれ、モチベーションが高まります。

成果を測定・振り返りするため

目標設定は、クライアントの進捗を見える化し、成長を実感するためにも重要です。明確な目標があることで、現在地を把握しやすくなり、課題や改善点も明確になります。さらに、定期的な振り返りによって、次の行動をより具体的に決められるようになります。

コーチングでは、成果だけでなく「学び」や「気づき」も振り返りの対象です。コーチングのプロセスを通じて、クライアントは自らの成長を実感し、自己効力感を高めていきます。

また、SMARTの法則のように目標を数値化・具体化することで、達成度を客観的に確認できます。成功体験の積み重ねが新たな挑戦への意欲を生み、成長の好循環が生まれるのです。

目標設定がないとコーチングの成果が出にくい

目標設定がないコーチングは、方向性・継続性・評価軸が欠けるため、成果や成長を実感しにくくなります。クライアントの行動変化が起こりにくく、モチベーションの維持も困難になります。この状態では、コーチングの効果が一時的な気づきや安心感にとどまり、持続的な成長にはつながりません。

つまり、目標設定はコーチングの「土台」です。これが欠けるとプロセス全体が不安定になり、効果が半減してしまいます。クライアントが成長を実感し、行動を変化させていくためにも、明確な目標設定は不可欠です。

目標設定に使われる「SMARTの法則」とは?

目標設定に使われる「SMARTの法則」とは?

コーチングでは目標設定に「SMARTの法則」が活用されます。これは以下の5つの要素の頭文字を取ったもので、目標をより明確かつ実行可能にするためのフレームワークです。

  • Specific(具体性があるか)
  • Measurable(数値として計測可能か)
  • Achievable(現実的に達成可能か)
  • Relevant(業務や目標との関連性はあるか)
  • Time-bound(達成までの期限が設定されているか)

それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。

Specific(具体性があるか)

目標は「誰が・何を・どのように・どの範囲で行うか」を明確にする必要があります。「売上を伸ばす」「チームを強化する」といった抽象的な表現では、行動に結びつけにくいもの。具体性を持たせることで、目標が行動レベルに落とし込まれ、関係者の認識も一致しやすくなります。

例として、「顧客満足度を上げる」ではなく、「主要顧客10社に月次ヒアリングを実施し、改善要望を3件以上反映する」と設定すれば、何をすべきかがはっきりします。明確な行動が示されることで、実行スピードが上がり、成果にもつながります。

Measurable(数値として計測可能か)

目標には、成果を定量的に評価できる指標を設けることが重要です。数値化されていない目標では達成状況を判断できず、振り返りや改善も曖昧になります。そのため、数値を設定すれば進捗が可視化され、達成意欲も高まります。

例えば、「営業成績を改善する」ではなく、「今期中に新規契約数を20件、既存顧客のリピート率を10%向上させる」といった形にすることで、成果を客観的に確認できます。こうした数値目標は、進捗管理やプロセス改善にも役立ちます。

Achievable(現実的に達成可能か)

目標は、努力すれば到達できる現実的な範囲で設定することが大切です。理想が高すぎると「達成不可能」と感じてモチベーションが下がり、逆に簡単すぎると成長実感が得られません。挑戦的でありながら達成可能なバランスを見極めることが重要です。

例えば、「今月中に売上を3倍にする」ではなく「今期中に売上を20%増加させる(新規見込み顧客5社を開拓)」が現実的ならば、これを目標とすると良いでしょう。過去データも参考に設定すれば、目標への納得感も高まります。

Relevant(業務や目標との関連性はあるか)

目標は、個人やチームの業務・上位目標と関連している必要があります。組織の方向性とずれた目標は、評価されにくく成果にもつながりません。関連性を持たせることで、チーム全体が同じ方向を向き、努力が組織成果に直結します。

例えば「新しいSNSを始めてフォロワーを増やす」ではなく、「新製品の認知拡大を目的に、SNSキャンペーンを通じてリード獲得を月50件増やす」と設定すれば、目的と手段の整合性が明確になります。

「何のための目標か」がはっきりしていると、優先順位の判断やリソース配分もしやすくなります。

Time-bound(達成までの期限が設定されているか)

目標には「いつまでに達成するか」という期限の設定が不可欠です。期限がないと行動の優先度が下がり、先延ばしにつながります。期限を設けることで計画が立てやすくなり、進捗管理や振り返りも容易になるでしょう。

例えば、「顧客対応プロセスを改善する」ではなく、「来月末までに顧客対応プロセスを見直し、対応時間を平均20%短縮する」と設定すれば、スケジュールを意識した実行が可能です。

期限を区切ることで、やる気を引き出す「デッドライン効果」も生まれます。

目標設定を含めたコーチングのステップ

コーチングは「現状把握→目標設定→行動のための計画→振り返り」の流れで進めることで、クライアントの成長を支援できます。具体的なステップについて見ていきましょう。

ステップ1:現状と「ありたい姿」の明確化

まずは、クライアントの現状を正確に把握することです。業績データ、チーム状況、本人の強み・弱みなどを整理し、現在の立ち位置を客観的に理解します。そのうえで「こうありたい姿」「こうなりたいという理想の姿」を具体的に言語化します。

質問例としては、以下があります。

▼質問例

  • 「今の業務で一番成果を出したい領域はどこですか?」
  • 「1年後、理想的な仕事ぶりをしている自分はどんな状態ですか?」

これにより、クライアント自身が目指す方向を具体的に描けるようになります。

ステップ2:具体的な目標の設定

次に、SMARTの法則を活用して、明確で測定可能な目標を設定します。数字や期限を盛り込み、達成状況を客観的に評価できるようにします。

営業職の場合「3か月後までに新規契約5件を獲得し、売上を20%増加させる」というように具体的に設定すれば、成果と期限が分かりやすくなります。

ステップ3:達成のための行動計画策定

設定した目標を実現するために、行動計画を立てます。大きな目標を中間目標や具体的なアクションに分解し、優先順位を整理します。また、人・時間・予算といったリソースをどう配分するかを決めることも重要です。

▼質問例

  • 「最初の1か月で達成すべき小さな目標は何ですか?」
  • 「達成のために活用できる社内外のリソースは何ですか?」

こうした質問を通じて、クライアントの行動をより具体化できます。

ステップ4:進捗確認と振り返り

最後に、定期的なミーティングなどで進捗の確認です。成果を数値や事実に基づいて検証し、計画の修正点や新たな課題を洗い出します。また、うまくいった事例や改善点を共有することで、次の行動につなげることができます。

▼質問例

  • 「この2週間で一番うまくいったことは何ですか?」
  • 「改善するとしたら、どこをどう変えますか?」

この振り返りのプロセスが、クライアントの自己成長を促進する重要な要素となります。

コーチングにおける目標設定のNG例は?

コーチングの効果を最大化するには、正しい目標設定が欠かせません。しかし、設定を誤ると行動の方向性があいまいになり、成果を実感しにくくなります。

ここでは、避けるべき目標設定の例を紹介します。

抽象的すぎる目標

「もっと頑張る」「リーダーシップを発揮する」といった抽象的な目標は、行動が具体化されないため、成果を測定しづらくなります。何をすれば良いのか分からず、振り返りや改善にもつなげにくいのが問題です。

コーチングの目的は「行動の変化」を促すことです。そのため、目標は数値・行動・期限を設定し、行動に落とし込める形にする必要があります。

例えば「3か月以内に部内の週次ミーティングで必ず意見を1回以上提案する」というような目標は、誰が・いつ・何をするかが明確で、行動と成果の両方を評価できる目標になります。

他人任せの目標

「部下が成長する」「上司が評価してくれるようになる」といった他人に依存した目標は、
自分ではコントロールできない要素が多いため、主体的な行動を生み出しにくくなります。

コーチングの主眼はクライアント自身の行動変化と成長です。他人の反応や結果を基準にしてしまうと、「自分では結果を動かせない」という感覚が生まれ、モチベーションを下げる要因になります。また、成果が出なかった場合に原因を外部に求めてしまい、成長の機会を逃すリスクもあります。

そのため、「自分ができること」「自分の行動で影響を与えられること」に焦点を当てることが大切です。他人の変化を目的とするのではなく、自分の行動を通して周囲にどう貢献したいのかを明確にしましょう。

例えば目標が「部下の成長支援のため、月1回1on1を実施し、行動目標を一緒に設定する」であれば、自分の行動を主語にした実践的な目標であり、他者への良い影響も期待できます。

現実離れした目標

「来月までに売上を10倍にする」といった非現実的な目標は、達成不可能なプレッシャーを生み出します。計画が立てにくく、早い段階で諦めてしまうことも多く、逆効果になりかねません。

目標は、努力すれば到達できる現実的な範囲で設定することが重要です。少し挑戦的なレベルであれば、達成への道筋を描きやすく、モチベーションも維持しやすくなります。

例えば「次の四半期で売上を20%アップさせるため、新規商談を週5件増やす」というような目標は、現実的でありながら挑戦的であり、行動意欲と成長の両方を引き出す目標になります。

目標設定を行ったうえでコーチングを進めよう

目標設定を行ったうえでコーチングを進めよう
コーチングにおける目標設定は、クライアントが理想とするありたい姿の実現に向けて自ら行動できるよう支援する重要なプロセスです。具体的で現実的な目標を設定することで、コーチングを通じてクライアントが「ありたい姿」に近づくことができます。

コーチングを効果的に進めるためにも、SMARTの法則などのフレームワークを活用しつつ、目標設定を行いましょう。

なお、日創研では経営者や管理職、リーダーの方を対象にした「企業内マネジメントコーチング6か月プログラム」をご用意しております。このプログラムでは、マネジメントコーチングの実践スキルと対人影響力を高め、スタッフのエンゲージメント向上や組織成果の最大化を目指します。

人材育成や組織改革にコーチングを取り入れたいとお考えの方は、ぜひ本プログラムの受講をご検討ください。

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質問や承認などで部下の意欲や行動を引き出し、結果をつくる人材を育てる手法がコーチングです。前向きで行動的な部下を育てたい上司には必須です。

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