コーチングに必要な技術とは?スキルを高める方法について解説
企業では、人材育成の一環としてコーチングを導入・実施するケースが多く見られます。しかし、コーチングを行う側(コーチ)の技術・スキルが不足していると、期待する成果を得られない可能性があります。そのため、まずはコーチ自身が十分なコーチングスキルを身につけた上で実施することが重要です。
本記事では、全国14,000社以上の会員企業様を支援してきた日創研が、コーチングに必要なスキルや技術について解説します。
さらに、コーチングスキルを高めるための方法や、効果的に技術を習得できるおすすめのセミナーも紹介しています。ぜひ参考にしてください。
目次
コーチングとは?必要性についても解説
コーチングとは、相手の中にある答えや可能性を引き出し、自発的な成長や目標達成を支援するための対話技術です。助言や指示によって導くのではなく、質問・傾聴・承認といったコミュニケーションを通じて、相手が自ら気づき、行動を起こすよう促す点が特徴です。
この手法は、ビジネスをはじめ、教育、スポーツ、医療など、さまざまな分野で活用されています。相手の中に眠る可能性を引き出すための「関わり方の技術」として、現代社会でますます注目を集めています。
現代社会でコーチングが求められている背景には、主に次の三つの要因があります。
- 自律的な人材育成が必要とされているため
- 多様化と変化への対応
- エンゲージメントと心理的安全性の向上
ビジネスにおいてコーチングが活用される場面
ビジネスの現場では、コーチングがさまざまな場面で効果を発揮します。特に「人材育成」と「日々のコミュニケーション」の2つの領域で活用されるケースが多く見られます。
人材育成
人材育成をするうえでのコーチングの活用場面としては以下があります。
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| OJT (On-the-Job Training) |
日常業務の中で上司が部下に対して傾聴や質問を行い、自らの考えを引き出す形で指導する →部下は課題解決力や自主性を高められる |
| 1on1ミーティング |
週に一度などの定期的な対話を通じて、目標や課題、キャリア観を共有する →上司が一方的に評価する場ではなく、成長を一緒に考える時間とすることで、信頼関係が深まりモチベーション向上にもつながる |
| 次世代リーダー育成 |
管理職候補者に対してコーチングを行い、意思決定やリーダーシップに関する内省を促す →リーダーとしての判断力や人間的成長が促進される |
このように、コーチングは人材の主体性や成長意欲を引き出し、組織全体の能力向上にも寄与します。
日々のコミュニケーション
コーチングの考え方は、人材育成を目的とした場面だけでなく日常のコミュニケーションにも役立ちます。
社員の発言に対して承認や質問を重ねることで、思いや考えを引き出し、信頼関係が築かれます。こうした日々のやり取りの積み重ねが、心理的安全性を高め、チーム全体の活性化にもつながるのです。
コーチングに必要な技術とは
効果的なコーチングを行うためには、単に質問を重ねるだけではなく、相手の内面に寄り添いながら成長を支援するためのスキルが求められます。ここでは、コーチングに必要な技術を紹介します。
傾聴力
傾聴力とは、相手の話を注意深く聴き、その言葉の奥にある感情や意図を理解しようとする姿勢のことです。
人は「自分の話を真剣に聞いてもらえている」と感じたとき、心を開きやすくなります。コーチが話を深く聴くことで、相手は自分の思考や感情を整理でき、自己理解が進みます。
また、効果的な傾聴には以下のようなポイントがあります。
- 相槌や要約で理解を示す
- 相手の言葉を繰り返して確認する
- 視線や姿勢で関心を伝える など
単に黙って聞くのではなく、相手を理解しようとする聴き方が求められます。
質問力
質問力とは、相手の思考や視点を広げ、自ら答えを導き出すよう促すスキルです。
人は問いかけを通して自分の考えを言語化し、気づきを得ることができます。コーチの質問が的確であればあるほど、相手に新しい発想や行動の選択肢が生まれます。
例えば、次のような質問があります。
- 「どうすれば実現できそうですか?」と行動を促す質問
- 「他にどんな選択肢がありますか?」と発想を広げる質問
- 「その判断をした理由は何ですか?」と内省を深める質問 など
特に自由に答えを導けるオープンクエスチョンは、気づきを引き出しやすい傾向があります。
承認力
承認力とは、相手の存在や努力、成果を適切に認め、その価値を伝える能力を指します。
承認されることで、人は「自分は受け入れられている」と感じ、モチベーションや自己効力感が高まります。また、承認は単なる褒め言葉ではなく、行動や過程に焦点を当てて伝えることです。「お会いできて光栄です」というような声掛けも承認に入ります。
承認には以下の種類があります。
- 存在承認:「あなたがここにいること自体に価値がある」と伝えること
- 行動承認:「準備に時間をかけてくれてありがとう」のような日々の努力への評価
- 成果承認:「以前より説明が分かりやすくなったね」というような結果に対して承認をすること
状況に応じて使い分けることで、相手の自己肯定感を安定的に支えることができます。
相手の感情や意図を捉える力
相手の感情や意図を捉える力とは、相手の言葉の背後にある感情や動機、本音を、非言語的な情報も含めて読み取る能力を指します。
言葉だけでは本当の課題やニーズを理解することは難しいものですが、表情や声のトーン、沈黙の間合いなどから感情を察知することで、誤解を防ぎ、より的確なサポートが可能になります。
この力を発揮するには、観察力と共感力の両方が欠かせません。例えば、以下が挙げられます。
- 声のトーンや間から感情の変化を感じ取る
- 反応が薄いときに納得していない可能性を読み取る
- 「気になることがありますか?」と問いかけて感情を言語化させる など
相手の表情や態度に敏感であることも大切なポイントです。
感情をコントロールする能力
コーチ自身が自分の感情を正確に把握し、冷静で建設的に対応できる力も重要です。
怒りや焦り、否定といった感情的な反応は、信頼関係を損ね、相手の心を閉ざしてしまう原因になります。一方で、自分の感情をコントロールできるコーチであれば、落ち着いた雰囲気を保ち、安心して話せる場をつくることができます。
感情コントロールの基本は「自分の思考や感情を客観的に捉えること」と「時間の間を持つこと」です。具体的には以下が挙げられます。
- 感情が高ぶったときに一呼吸おく
- 「自分はいま何を感じているのか」を観察する
- 意見が違っても「そういう考え方もありますね」と受け止める など
上記の行動によって、感情的な反応を理性的な対応に変えられます。感情をコントロールし、冷静さを保つコーチは、相手に安心感と信頼を与える存在となるでしょう。
コーチングの技術・スキルを高める方法

コーチングを効果的に行うためには、理論を学ぶだけでなく、実践と振り返りを重ねることが欠かせません。次からコーチングの技術・スキルを高める方法をご紹介します。
知識をインプットする
まずは、コーチングの理論や基本スキルを体系的に学び、全体像を理解することが重要です。コーチングは単なる会話術ではなく、心理学やコミュニケーション論、行動科学などの理論に基づいた技術であるためです。
基礎を学ぶことで「なぜ傾聴が大切なのか」「どのような質問が相手の成長を促すのか」といった行動の根拠が明確になります。また、自らコーチングを受け、クライアントの立場に立ったときの感情や思考プロセスを体感できる点も大きな学びです。
知識をインプットする方法としては、次のような手段があります。
- 書籍・動画などで基礎的な理論を学ぶ
- 研修やセミナーに参加する。
- 自らコーチングを受けて「気づきが生まれる流れ」を実感する など
このように基礎的な理論と体験の両面から理解が深まります。
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コーチングを実践してみる
コーチングスキルは、実際に対話を重ねる中で磨かれていきます。どれだけ理論を学んでも、実践を通じて経験を積まなければ本当の成長にはつながりません。
コーチングでは、相手の反応に応じて質問や沈黙のタイミングを調整する感覚が求められますが、これは座学だけでは身につかないスキルであり、実践の場で身につけていくことが大切です。
実践方法としては以下が挙げられます。
- 同僚や仲間とロールプレイを行って質問や傾聴を試す
- 1on1ミーティングに短いコーチングを取り入れる
- 相手の気づきを引き出せた瞬間を記録する など
実践を重ねて小さな成功体験を積み重ねることで、コーチングスキルは着実に向上していきます。
振り返りおよび継続
実践後の振り返りと継続的な改善もコーチングスキルを高めるうえで重要です。自身のコミュニケーションの癖や無意識の反応は、意識的に観察しなければ気づくことが難しいためです。
録音や録画を活用して振り返ることで「質問が誘導的だった」「沈黙を十分に待てなかった」など具体的な課題を見つけやすくなります。振り返りの方法としては以下があります。
- 録音・録画を見ながら、自分の言葉づかいや表情、間の取り方を確認する
- メンターや同僚など第三者からフィードバックをもらう
- 記録を残して前回との違いを可視化し、月に一度は自己評価を行う習慣を持つ など
継続して取り組むことで自然と高いレベルの対話ができるようになるでしょう。
コーチングの基礎となる三原則
コーチングを効果的に行うためには、理論やスキルだけでなく、根底にある考え方を理解することが欠かせません。コーチングの基礎となる三原則について解説します。
双方向のコミュニケーションであること
まず一つ目はコミュニケーションが双方向であることです。
コーチングは、一方的に知識や助言を伝えるものではなく、相互の対話を通じて気づきや行動を引き出すプロセスです。人は自分の考えを言語化することで、より深い理解と納得感が得られます。
「コーチが問いかけ、クライアントが答え、さらにコーチが傾聴してフィードバックを返す。」というやり取りを繰り返すことで、思考が整理され、新しい視点や解決策が生まれます。したがって、コーチングでは、双方向のコミュニケーションを意識し、「教える」よりも「引き出す」姿勢を持つことが鍵となります。
また、双方向性を成立させるためにも、コーチは相手の言葉や感情を丁寧に受け止め、傾聴の姿勢を持つこと、また、クライアントは自らの考えを言葉にし、自己理解を深めることが重要です。
継続的に実施すること
二つ目の原則は、継続的に実施することです。
コーチングは、一度きりの対話では効果を十分に発揮できません。定期的かつ継続的に実施することで、行動変容や習慣化が促されます。
継続的なコーチングを行うことで、相手の変化を観察し、次の課題に応じて支援内容を柔軟に調整できます。実践においては「対話→行動→振り返り→目標の再設定」という循環で構成されます。
特に長期的な人材育成プログラムでは、このサイクルを習慣化することで、本人が自ら学びを回せるようになります。
相手に応じた柔軟な対応をすること
三つ目の原則は、相手に応じて柔軟に対応することです。
コーチングは、相手の性格や状況、目標に合わせてアプローチを変化させる柔軟性が求められます。人によって思考のパターンやモチベーションの源泉は異なり、同じ質問でも響き方や行動へのつながり方が変わるためです。
コーチは「型どおりの質問」を繰り返すのではなく、相手の理解度や感情の動き、置かれている状況を見極めながら、以下のように最適な関わり方を選ぶことが重要です。
- 状況に応じて「問いかけ」と「助言」のバランスを調整する
- 落ち込んでいる相手には共感や承認を優先する
- 行動段階にある相手には課題を具体化する質問を行う など
このような相手の状態に合わせたアプローチが、信頼と成果の両立を生み出します。
コーチングの技術を高めると期待できるメリット
コーチングスキルを磨くメリットについて、管理職・部下の2つの視点から見ていきましょう。
管理職(コーチ側)のメリット
コーチング技術を身につけた管理職は、「教える上司」から「育てる上司」へと変化できることがメリットといえるでしょう。
部下に指示を出すだけでなく、対話を通じて主体性や思考力を引き出すことで、信頼に基づいたチーム運営が可能になります。
従来のマネジメントは、指示や管理が中心であり、部下の自発的な行動を妨げることもありました。しかし、コーチングを実践する上司は、質問や承認を通して「自ら考える人材」を育てることができます。傾聴や共感を大切にする姿勢が部下の信頼を高め、心理的安全性のある職場づくりにつながります。
さらに、効果的にコーチングを行う管理職は、人の成長そのものを成果として捉えるようになり、以下のような変化が生まれます。
- 部下が自ら課題を発見・解決するようになり、指示にかかる負担が減る
- 上司としての影響力が信頼に基づくものへ変化する
- チーム全体が自走型組織へ移行し、継続的な成果を生み出す
このようにコーチングスキルの向上は、マネジメントの質が管理から支援・開発へと進化することがメリットといえるでしょう。
部下(コーチングを受ける側)のメリット
コーチが技術を高め、質の高いコーチングができると、部下は自ら考え行動する力が育ち、より成長を実感できるようになります。
コーチングは相手の内側から答えを引き出すプロセスなので、この過程を繰り返すことで、自然と自分で考える習慣が身につきます。
また、承認やポジティブなフィードバックを受けることで、自らの努力が評価され、成長が認められていることを認識し、自己効力感が高まります。こうした経験が、自らの目的意識による行動への転換を促します。
職場では、次のような変化が見られるようになります。
- 指示待ちではなく、部下が自ら課題を発見し提案・行動するようになる
- フィードバックを前向きに受け止め、改善を楽しめるようになる
- 上司との関係が「報告」から「対話」へと変わり、信頼が深まる
結果として、コーチングを通じて部下の成長スピードが上がり、キャリア形成にも主体的に取り組むようになります。
セミナーなどでコーチングの技術を高めよう

コーチングの技術は、少し勉強しただけで身につくものではありません。基礎的な理論を理解し、実践と振り返りを繰り返すことで、初めて定着します。人材育成や組織の成長を目的にコーチングを導入する場合、コーチ自身が確かな技術を身につけることが不可欠です。
日創研では、コーチングを体系的に学べるセミナーや、実践を重視したプログラムをご用意しています。
例えば、「企業内マネジメントコーチング6か月プログラム」は、実践型ワークを中心に、マネジメントコーチングを段階的に身につけることを目的としています。
このプログラムでは、人材育成のためのメソッドを学び、対人影響力を飛躍的に高めることで、従業員エンゲージメントの向上につなげます。単発のセミナーではなく、6か月間にわたって継続的に学び・実践し、さらに現役経営者がサポーターとして受講者を支援する点が特徴です。
ぜひ参加をご検討のうえ、お気軽にご相談ください。

質問や承認などで部下の意欲や行動を引き出し、結果をつくる人材を育てる手法がコーチングです。前向きで行動的な部下を育てたい上司には必須です。






