経営戦略の策定プロセスを5つのステップに分けて解説
経営戦略は、変化の激しい市場環境の中で企業が持続的に成長していくために欠かせないものです。しかし、実際に「どのような流れで経営戦略を策定すればよいのか」「どのようなステップを踏むべきか」が分からず、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、全国で14,000社以上の会員企業様を持ち、数多くの中小企業の経営を支援してきた日創研が、経営戦略の策定プロセスについて紹介します。
経営戦略の立案に関わるご担当者様や、経営戦略について体系的に理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
経営戦略の必要性とは
経営戦略とは、企業が進むべき方向を明確にし、限られた資源の中で最大の成果を生み出すための重要な指針です。戦略があることで優先順位が明確になり、企業が長期的に成長し続けるための土台が整います。
まず、メリットとして挙げられるのが、判断基準が明確になる点です。何を優先し、何をやめるのかが整理されることで、迷いや無駄な取り組みを減らすことができます。
さらに、競争環境の中で勝ちやすくなる点も重要です。自社が「どの価値で勝負するのか」を明確にすることで、不要な価格競争や消耗戦に巻き込まれにくくなります。また、市場や技術が変化した場合でも、既存の戦略を土台に柔軟な修正ができるため、変化に強い経営体制を築くことができます。
一方で、戦略がない状態では短期的な売上対策に追われやすく、結果として長期的な成長が止まってしまうリスクがあります。人・お金・時間といった経営資源が限られている企業ほど、戦略の有無が成果に直結するといっても過言ではないでしょう。
また、戦略には「何をするか」だけでなく、「何をしないか」を決める役割もあります。環境の変化に応じて見直しを繰り返すことで、戦略はより実効性の高いものへと進化していきます。
経営戦略の策定プロセス|1. 経営理念の策定
まず経営戦略の策定において不可欠なのは、経営理念の策定です。
経営理念の策定は、企業が「何のために存在し、どのような未来を目指すのか」を明確にする、経営戦略の出発点となる重要なステップです。理念が定まっていない状態では、戦略や事業の方向性がぶれやすく、場当たり的な判断に陥りがちになります。
さらに、組織としての方向性が曖昧なままだと、社員や関係者が共通の目的を持ちにくくなり、組織の一体感も生まれにくくなります。そのため、あらゆる意思決定の基準となる経営理念が欠かせません。
経営理念には、「ビジョン」と「ミッション」といった要素も含まれます。これらが明確になることで、戦略・商品開発・人材育成などに一貫性が生まれ、企業としての軸がより強固になります。
ビジョン
ビジョンとは、企業が将来的にどのような姿を実現したいのかを示す「理想の未来像」です。目指す方向が明確であれば、社員さんが共通の目標を持ち、日々の行動や意思決定の判断基準が定まりやすくなります。
一般的には5〜10年後の姿を想定して策定されることが多く、現実離れしすぎず、かつ目標として具体的にイメージできる内容が望ましいとされています。
「10年後に、業界で最も信頼されるサービス企業になる」
ミッション
ミッションとは、企業の存在意義、すなわち「なぜこの会社が存在するのか」を示すものです。目的が不明確なままでは、戦略や日々の意思決定に一貫性がなくなり、組織全体の方向性が定まりません。
また、ミッションが明確であるほど、理念に共感する人材が集まりやすくなり、組織としての結束力も高まります。ミッションは短期的に変えるものではなく、長期にわたって企業の核となるものであり、企業が迷ったときに立ち返る原点ともいえます。
「人々の生活をより便利で豊かにする技術を提供する」
経営戦略の策定プロセス|2. 外部環境の分析
外部環境の分析とは、市場動向や競合の状況、社会全体の変化を把握し、自社にとってのチャンスやリスクを見極めるために欠かせないプロセスです。
企業の外側で起こる変化は、自社でコントロールすることができない一方で、経営に大きな影響を与えます。そのため、外部環境を正しく捉えずに戦略を立ててしまうと、顧客ニーズや時代の流れから外れた施策になりかねません。
外部環境を的確に把握しておけば、市場の変化に先回りした行動が可能となり、新たなビジネスチャンスをつかみやすくなります。また、将来のリスクも早期に察知できるため、大きな損失を回避することにもつながります。代表的な分析手法としては以下が挙げられます。
- PEST分析
- 5フォース分析
- 3C分析
1. PEST分析
PEST分析とは、以下の4つの視点で構成され、社会全体の大きな流れを把握する分析手法です。
- 政治(Politics):(例)規制緩和、法改正、補助金制度など
- 経済(Economy):(例)物価、景気動向、為替変動など
- 社会(Society):(例)人口動態、価値観、消費者意識の変化など
- 技術(Technology):(例)AI、DX、新技術の進展など
これらの要因は、企業の意思とは関係なく経営に影響を及ぼします。法律改正や景気変動、価値観の変化、技術革新などを見落としたまま戦略を立ててしまうと、市場環境とずれた判断になりかねません。
PEST分析の特長は、トレンドに気づきやすい点にあります。将来的なリスクや新たなビジネスチャンスを早期に捉えやすく、日々のニュースや公的データから情報を収集できるため、外部環境分析の基本手法として広く活用されています。
2. 5フォース分析
5フォース分析は、業界の競争環境を構造的に整理し、その市場がどれほど利益を生み出しやすいかを判断するためのフレームワークです。
業界によって競争の激しさや収益性は大きく異なり、競争が過度に激しい市場では、努力しても十分な成果が得られないこともあります。そのため、業界構造を事前に把握することが重要です。分析の軸となるのは、以下の5つの競争要因です。
- 競合他社の存在
- 新規参入のしやすさ
- 代替品の存在
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
これらの力関係を整理することで、価格競争に陥りやすいかどうか、安定して利益を出せる業界かどうかが見えてきます。新規事業の参入判断や、既存事業の見直しにも活用できる実践的な分析手法です。
3. 3C分析
3C分析は、以下3つの視点から状況を整理し、自社が勝てるポジションを見つけるための手法です。
- 市場(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
市場のニーズを正しく理解していなければ、どれほど優れた商品やサービスであっても選ばれません。また、競合の動きを知らなければ、同質化した消耗戦に巻き込まれるリスクが高まります。
一方で、自社の強みを把握できれば、どの領域で戦うべきかが明確になります。
- 市場(顧客)→どのようなニーズ・不満・変化があるか?
- 競合→誰と競っているのか、競合の強みは何か?
- 自社→他社より優れている点、改善すべき点は何か?
この3つをバランスよく分析することで、勝てる市場や差別化の方向性が見えやすくなります。特に新規事業の検討や既存事業の見直しにおいて、実践性の高い分析手法として多くの企業で活用されています。
経営戦略の策定プロセス|3. 内部環境の分析
内部環境の分析は、自社が持つ「強み」と「弱み」を客観的に把握し、それを外部環境のチャンスとどのように結びつけるかを明確にする重要なプロセスです。
自社の強みを正しく理解できていなければ、競争で優位に立つ戦略を選ぶことは難しくなります。一方で、弱みを見落とすと、戦略の実行段階で障害となる可能性があります。
また、外部環境に存在するビジネスチャンスと自社の強みが一致すれば、大きな成果につながる可能性が高まります。内部分析の代表的な手法には、SWOT分析・VRIO分析・バリューチェーン分析があります。
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【内部環境の分析で使われる主な手法】
- SWOT分析
- VRIO分析
- バリューチェーン分析
これらを活用し、自社のコア・コンピタンス(核となる強み)を明確にすることが、戦略立案の土台となります。強みを最大限に活かし、弱みを補う戦略設計をしましょう。
1. SWOT分析
SWOT分析は、自社の以下4つの要素を整理し、戦略の方向性を導き出すための基本的な分析手法です。
- 強み(Strength):競合より優れているポイント
- 弱み(Weakness):改善が必要な点
- 機会(Opportunity):市場成長や新たなニーズ
- 脅威(Threat):競合の増加や規制強化などのリスク
強みや弱みの内部要因と、機会や脅威といった外部要因を1つのフレームワークで俯瞰できるため、全体像を把握しやすい点が特長です。
SWOT分析は、戦略策定の初期段階で現状を整理し、全体像をつかむのに有効な手法です。
2. VRIO分析
VRIO分析は、自社の強みが「長期的な競争優位につながるかどうか」を判断するための分析手法です。すでに保有している強みが本当に価値のあるものなのか、また他社に真似されにくいのかを多角的に評価できます。
評価の視点は、次の4つです。
- 価値(Value):顧客にとって価値があるか
- 希少性(Rarity):他社にはない希少な資源か
- 模倣困難性(Inimitability):簡単に真似されないか
- 組織(Organization):組織として十分活かせているか
これらすべての条件を満たす強みは、コア・コンピタンス(※)として長期的な競争力を生み出します。自社のコア・コンピタンスを見極めるうえで、実践的な分析手法です。
(※)コア・コンピタンス:他社に模倣されにくい、企業の中核となる強みや能力のこと
3. バリューチェーン分析
バリューチェーン分析(Value Chain)は、企業活動を工程ごとに分解し、それぞれの活動がどのように価値や利益を生み出しているのかを明らかにする分析手法です。全体を漠然と捉えるのではなく、工程単位で見ることで、強みや弱みをより具体的に把握できます。
主な工程には、購買・製造・物流・販売・アフターサービスなどの主活動があり、人事・技術開発・経営管理などの支援活動も含まれます。どのプロセスが付加価値の源泉になっているのかを明確にすることで、改善すべきポイントも見えやすくなります。
特に他社より優れている工程を特定できれば、その強みを戦略に直接反映することが可能です。また、コスト削減の余地や差別化につながる要因を発見できる点も、バリューチェーン分析の特長といえます。
経営戦略の策定プロセス|4. 戦略の立案と選択

戦略の立案と選択は、外部環境分析と内部環境分析の結果を踏まえ、「どの市場で勝つのか」「何を強みにするのか」「どの事業に経営資源を集中させるのか」といった方向性を決定する段階です。
分析を行っただけでは成果にはつながらず、進むべき道を明確に定めて初めて戦略として機能し始めます。
戦略を選択する際には、次の3つの視点を重視すると良いでしょう。
- 実現可能性:人材・資金・期間・リスクを踏まえて実行できるか
- 一貫性:ビジョンやミッションと調和しているか
- 競争優位の持続性:強みを長期的に活かせるか
経営戦略の策定プロセス|5. 戦略の実行
戦略の実行は、策定した戦略を組織全体で動かせる形に落とし込み、実際の行動へと結びつけるステップです。
どれほど優れた戦略であっても、実行されなければ意味はなく、成果にもつながりません。また、会社全体が同じ方向性を共有していなければ、戦略は現場で機能しないまま終わってしまいます。
そのため、戦略を具体的な行動に落とし込む際には、部門や個人レベルまで分解し、「誰が・いつまでに・何をするのか」を明確にすることが欠かせません。実行フェーズにおける主なポイントは次のとおりです。
- 組織体制や人材配置を戦略に合わせて再設計する
- 部門ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、行動を数値で管理する
- 戦略の目的や狙いを全社員と共有し、理解を深める
戦略が現場の業務にしっかり落とし込まれ、必要なスキルや仕組みが整ってはじめて、戦略は成果として形になっていきます。
経営戦略の策定プロセス|6. 戦略のフィードバック
戦略のフィードバックは、環境の変化や実行結果を踏まえて戦略を継続的に見直し、改善していくプロセスです。
市場や技術は常に変化しているため、一度立てた戦略をそのまま継続していると、次第に現状とのズレが生じてしまいます。また、実行結果を振り返らなければ、成功要因や課題を正しく把握することはできません。
フィードバックの基本的な流れは以下のとおりです。
- 成果の測定:KPIや数値、顧客満足度などを確認する
- 原因分析:成功要因・失敗要因を整理する
- 改善策の立案:やり方の見直しや新たな施策を検討する
- 再実行:改善した戦略を実行し、次のサイクルへつなげる(PDCA)
戦略は「立てて終わり」ではなく、環境に合わせて柔軟に見直し続けることが重要です。優れた戦略ほど、改善を重ねることで、より強固なものへと磨き上げられていくでしょう。
戦略策定で重視すべきポイント
経営戦略を策定する際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。適切なプロセスと視点を持つことで、戦略の実効性が高まり、組織全体が一つの方向に向かって行動しやすくなります。
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【戦略策定で重視すべきポイント】
- 一貫した「目的と方向性」を持つ
- 外部環境と自社の強みを整合させる
- 実行可能で柔軟な戦略にする
- 理想や願望だけで戦略を立てない
- 戦略と実行が分断しないようにする
1. 一貫した目的と方向性を持つ
「自社は何のために存在するのか」を明確にし、長期的な方向性と戦略が一致しているかを確認しましょう。
戦略は、明確な目的と方向性を土台として初めて機能します。「なぜその戦略を選ぶのか」という理由が定まっていなければ、実効性のある戦略にはなりません。
目的が曖昧なままでは施策が場当たり的になり、組織全体の力が分散してしまいます。また、経営理念・ビジョン・ミッションと結びついていない戦略は、継続性を欠き、成果も不安定になりがちです。
目的を全社員に共有し、日々の判断基準として活用できる状態をつくることで、組織全体が同じ方向を向いて行動しやすくなります。
2. 外部環境と自社の強みを整合させる
外部環境と自社の強みに整合性があるかもポイントです。
成果につながる戦略とは、外部環境におけるチャンスと自社の強みが重なる領域を狙ったものです。市場の変化を無視した戦略は方向性がずれやすく、逆に自社の強みを活かせない分野では競争に勝つことが難しくなります。
そのため、PEST分析・3C分析・SWOT分析などを活用し、「自社が最も価値を発揮できる市場や領域」を見極めることが重要です。強みを活かして市場機会を捉える構図を戦略に組み込むことで、成果につながる確率は高まるでしょう。
3. 実行可能で柔軟な戦略にする
戦略は、現実的に「実行できる」ものでなければ意味がありません。
人材・資金・時間といった経営資源に対して無理のある計画は、実行段階で行き詰まりやすくなります。さらに、市場環境は常に変化するため、状況に応じて柔軟に見直せる戦略であることも重要です。
そのため、リソースに見合った計画を前提とし、KPIを設定して進捗を数値で管理することが求められます。あわせて、改善サイクル(PDCA)を継続的に回せる体制を整えることで、変化や失敗にも対応しやすくなります。
4. 理想や願望だけで戦略を立てない>
戦略は、夢や希望だけでつくるものではなく、現状分析と客観的な根拠に基づいた現実的な選択であるべきです。
市場環境や社内リソースを無視した戦略は、実行段階で必ず行き詰まります。また、根拠のない数値目標は社員さんの不信感を招き、モチベーションの低下につながる恐れもあります。
「売上〇倍」といった理想が先行していないかを常に点検し、人材・資金・技術といった実現可能性の裏付けがあるかを確認する姿勢が重要です。現場の実行力と乖離していないかどうかもチェックしておきましょう。
5. 戦略と実行が分断しないようにする
戦略は、現場で理解され、実行されてこそ成果につながります。立案しただけで満足してしまうと、戦略は机上の空論に終わり、組織の成長には結びつきません。実行の仕組みがなければ、どれほど優れた戦略であっても形だけのものになってしまいます。
戦略と日々の行動をつなげるためには、現場が戦略の意図を正しく理解し、具体的な行動に落とし込めているかを確認することが欠かせません。部門ごとのKPIや役割分担を明確にし、モニタリングと改善の仕組み(PDCA)を整えることで、実行状況を継続的に把握できます。
プロセスを理解して経営戦略の策定をスムーズに

経営戦略は、企業の進むべき方向を明確にし、限られた経営資源で最大の成果を生み出すための重要な指針です。経営理念の策定を出発点に、外部環境と内部環境の分析を行い、実行可能で競争優位のある戦略を立案・実行・改善していくことが、基本的な策定プロセスとなります。
この一連の流れを理解することで、戦略策定をよりスムーズに進めることができるでしょう。
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2. 経営理念と戦略ワンポイントセミナー
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