コーチングは部下育成にも役立つ!活用するメリットや効果的に進めるポイントとは
コーチングとは、コーチが質問を通じて相手の考えを引き出し、自ら答えにたどり着けるように支援するコミュニケーション手法です。近年では、社員さん達の成長を促す目的で、企業がコーチングを導入・実施するケースも増えています。
本記事では、全国14,000社以上の会員企業様を支援してきた日創研が、コーチングを部下育成に活用するメリットや効果的に進めるうえでのポイントをまとめました。
目次
コーチングは部下育成にも活用可能
コーチングは、部下の育成にも効果的に活用できます。コーチングを行うことで、部下が主体的に考え、行動する力を引き出すことができるためです。
コーチングとは、相手の中にある答えや可能性を引き出すためのコミュニケーション技術です。上司であるコーチが、質問や傾聴、承認を通じて部下の考えを整理し、自ら解決策を導けるよう支援します。
また、コーチングは「教える」や「管理する」ことを目的としたティーチングやマネジメントとは異なります。相手の中にある答えを引き出すことを重視するため、特に一定の経験やスキルを持つ部下の育成に効果的です。
ティーチングとの違い
コーチングと混同されやすい「ティーチング(Teaching)」は、知識やスキルを教えることに重点を置いた教育方法です。
上司や教育担当者が体系的に知識や技術を伝えることで、部下が「知らないことを理解し、できるようになる」段階で効果を発揮します。つまり、ティーチングは知識や方法を伝えることを目的とし、コーチングは相手の思考力を引き出すことを目的とする点が異なります。
- ティーチング:「この資料の作り方はこうすると効率的ですよ」
- コーチング:「資料作りを効率的に進めるために、どんな工夫ができそうですか?」
OJTとの違い
OJT(On the Job Training)は、実際の業務を通じてスキルを身につける教育方法です。上司や先輩が仕事の進め方や手順を教えることで、実践的な学びを得られます。
コーチングはOJTの中でも、自分で考え、成長を促す段階で効果を発揮します。つまり、OJTがやり方を教えることを重視するのに対し、コーチングは考える力を育てることに焦点を当てる点が異なります。
コーチングを部下育成に活用するメリットとは
コーチングを部下育成に取り入れることで得られる効果は、個人の成長にとどまらず、組織文化の変革にもつながります。ここからは、部下育成にコーチングを活用する主なメリットを解説します。
主体性・自律性が高まる
コーチングは、部下の主体性や自律性を引き出すのに効果的です。上司が答えを与えるのではなく、質問を通して「どうすべきか」を部下自身に考えさせることで、受け身の姿勢から脱却し、自ら課題を解決する力を養います。
このアプローチにより、部下は問題発見力・意思決定力・実行力を身につけ、成長のスピードが大きく向上します。変化の激しいビジネス環境でも、上司の指示を待たずに行動できる人材を育成できるでしょう。
信頼関係が深まる
コーチングを通じて、上司と部下の間に深い信頼関係が築かれます。傾聴・承認・質問といったコーチングの基本を実践することで、上司は部下を一人の人間として尊重する姿勢を示すことが可能です。
その結果、部下は「自分の意見を受け止めてもらえている」と感じ、心理的安全性が高まります。信頼関係が強まることで本音の対話が増え、報告・連絡・相談も円滑に行われるようになるでしょう。
モチベーションが向上する
コーチングは、部下のモチベーションを高める効果があります。目標や行動計画を自分の意思で決めるプロセスを重視するため、「やらされている」ではなく「自分で選んだ目標に挑戦している」という前向きな気持ちを持てるようになります。
この自発的な意欲が、業務パフォーマンスの向上にもつながります。
組織としての成果に直結する
コーチングは、個人の成長を通じてチーム全体の成果を高める仕組みです。部下が自律的に行動し、創意工夫を発揮することで、チーム全体の生産性や協働性が自然と向上します。
また、上司が「教えるリーダー」から「引き出すリーダー」へと変化することで、チーム内に学び合う文化が生まれます。この文化は生産性・顧客満足度・品質・スピードなどの改善につながります。
人材の定着と成長が促進される
コーチングは、離職率の低下にも効果があります。
コーチングにより、個人が主体性を持って仕事に取り組み、働きがいを感じながら組織への貢献意欲を高めます。また、上司からの傾聴や承認のコミュニケーションを通じて「自分は評価されている」「組織に必要とされている」という実感を得られ、さらなる意欲を生み出し、離職率の低下や生産性の向上につながります。
その結果、仕事への意欲が持続し、人材の定着と継続的な成長につながるのです。
部下育成のコーチングで上司が心がけたいこと

コーチングは、相手の可能性を引き出すコミュニケーションであり、上司の関わり方ひとつで成果が大きく変わります。ここでは、上司が意識したい4つのポイントを解説します。
1. すぐに答えを与えない姿勢を持つ
上司は、すぐに答えやアドバイスを伝えるのではなく、部下が自ら考える時間と機会を確保することが大切です。
コーチングの本質は「部下の中にある答えを引き出す」ことにあります。もし上司が先に答えを提示してしまえば、部下は考えることをやめ、指示を待つ姿勢が強まってしまう可能性があるためです。
自分の力で答えを導き出した経験は、大きな自信と責任感を育てます。このような「考えるプロセス」を通じて、部下はより主体的に成長していくでしょう。
また、コーチングにおいては「沈黙」も重要な時間です。上司は、部下が考える余白を尊重し、焦らずに待つ姿勢を持ちましょう。どうしても助言が必要な場合は、直接的な答えを与えるのではなく、「ヒントを出す」か「視点を広げる質問」を活用すると効果的です。
たとえば、「他にどんな方法がありそうですか?」といった問いかけが、部下の思考を前向きに刺激します。
2. 傾聴に徹する
コーチングにおける信頼関係の基礎は「傾聴」にあります。部下の話を途中で遮らず、評価や否定をせずに、最後まで丁寧に耳を傾けることが大切です。
コーチングがうまく機能するためには、心理的安全性が欠かせません。部下が「この上司なら安心して話せる」と感じて初めて、本音で話し合える環境が生まれます。逆に上司が評価的な態度を取ったり、アドバイスを急いだりすると、部下は防御的になり、本質的な課題を話せなくなってしまいます。
傾聴は「聴く」ことも重要ですが「理解しようとする姿勢」を示すことも大切です。相槌や、「そう感じたのですね」「なるほど、そう思ったんですね」といった共感的な返答を用いることで、安心して話せる雰囲気をつくることができます。
3. 質問は広げる/気づかせる
コーチングにおける質問は、部下の思考を深めたり、新しい視点に気づかせたりするために使います。責めるためや詰問するための手段ではありません。
例えば「なぜできなかったのか?」といった質問は、部下が防御的になり、考えを狭めてしまう可能性があります。
一方、「どうしたらうまくいくと思いますか?」「次はどんな工夫ができそうですか?」といった未来志向の質問は、前向きな思考を引き出します。部下が「次にどうすれば良いか」を自分で見つけ出す機会を与えることが大切です。
上司は「どう」「どんな」「なぜ」などのオープンな質問を意識して使いましょう。
4. 成果ではなく変化や努力を認める
コーチングにおいては、結果だけでなく、努力や行動のプロセスを承認することが重要です。
上司が成果ばかりに注目すると、部下は失敗を恐れて挑戦しにくくなります。しかし「努力や変化をしっかり見てくれている」と感じられると、部下は安心して挑戦を続けられるようになります。
承認は褒めることとは少し異なります。大切なのは感情的な評価ではなく、事実に基づいて認めることです。例えば「昨日よりも具体的に説明できていました」や「最後まで粘り強く取り組んでいましたね」といった言葉です。
こうしたフィードバックは、部下に自分の成長を実感させ、次の行動への意欲を高めます。
部下の変化を丁寧に見取り、努力を言葉で伝えることが、コーチとして信頼を築く最もシンプルで確実な方法です。
部下育成でどのようにコーチングを取り入れるか
コーチングは特別な研修や面談の場だけでなく、日常のコミュニケーションの中でも効果的に取り入れることができます。ここでは、日常の場面での取り入れ方を紹介します。
日常会話にて
日常業務の中で上司が指示ではなく、問いかけを意識することが、部下の思考力と判断力を育てます。
毎回上司が「こうすればいい」と答えを与えてしまうと、部下は考える機会を失い、受け身の姿勢が強くなります。反対に「どう進めたいですか?」「どんな選択肢がありそうですか?」と問いかけることで、部下は自分の頭で考え、意思決定力や課題解決力を自然に鍛えていきます。
コーチングは特別な時間を設けなくても、日常会話の中で実践可能です。ポイントは「指示ではなく、問いで返すこと」と「考えを引き出す質問を意識すること」です。
- NG:「それはこうやればいいですよ」
- OK:「このケース、君ならどう進めたいですか?」
このような問いを積み重ねることで、部下の自律的に考える習慣が少しずつ形成されていきます。日常会話の中にコーチングの要素を取り入れることが、主体的な人材を育てることにつながります。
部下がミスした時
部下がミスをしたとき、上司の対応によってその後の成長スピードは大きく変わります。重要なのは、ミスを責めるのではなく、コーチング的な質問を使って「次にどう活かすか」を一緒に考える姿勢です。
「なぜできなかったの?」と問い詰めるような質問は、原因追及の印象が強く、部下を防御的にしてしまいます。代わりに「どうすれば次はうまくいくと思いますか?」「次に活かせることはありますか?」といった質問を投げかけることで、前向きな思考を促し、再挑戦への意欲を引き出すことができます。
このようなアプローチは、部下に自分で考え、改善する力を養うきっかけを与えます。失敗を単なるミスとして終わらせず、自分の成長材料として捉えられるようになるのです。
上司は「叱る」のではなく、以下のように「問いかけで考えさせる」姿勢を意識しましょう。
- NG:「なんでこんなミスをしたのですか?」
- OK:「今回の結果をふまえて、次に活かせることはありますか?」
このような質問は、失敗の「責任」ではなく「成長の糧」に焦点を当てているため、部下が心理的に安心できる環境を保ちつつ、自らの学びを深めるきっかけとなるのです。
コーチングを効果的に活用して部下育成を進めよう

コーチングは部下の育成にも役立つコミュニケーション手法です。人材育成としての側面はもちろん、上司と部下の信頼関係構築のほか、組織にも利益をもたらします。コーチングを効果的に取り入れて、自分で考えて行動する部下を育成しましょう。
なお、日創研ではコーチングの基本を体系的に学べる「企業内マネジメントコーチング1日セミナー」をご用意しております。
本セミナーでは、一般的な個人向けのコーチングとは異なり、企業内での成果を高めるために、上司がどのように部下の成長を支援するかという視点から、コーチングのスキルやポイントについて学ぶことができます。
「部下とのコミュニケーションのあり方を見直したい」「自分で考え行動できる人材を育てたい」という方は、ぜひ参加をご検討のうえ、お気軽にご相談ください。







